
この記事の要点
自閉スペクトラム症(ASD)は、人とのコミュニケーションや相互的な関わり方、興味・行動のパターンなどに特性が見られる神経発達症です。特性の現れ方や必要な支援は一人ひとり異なります。診断名だけで子どもを理解しようとせず、本人にとってわかりやすく、安心して過ごせる環境を一緒に探すことが大切です。
この記事でわかること
- ASDとはどのような特性か
- コミュニケーション・行動・感覚面に見られること
- 「スペクトラム」とはどういう意味か
- 診断はどのように行われるのか
- 家庭や園・学校でできる関わり方
1.自閉スペクトラム症(ASD)とは?
自閉スペクトラム症(Autism Spectrum Disorder:ASD)は、社会的コミュニケーションや対人相互関係における持続的な特性と、限定的・反復的な行動、興味、活動のパターンを特徴とする神経発達症です。特性は発達の早い時期から見られますが、周囲から求められることが増えるにつれて、困りごとがはっきりする場合もあります。[1][2]
以前は「自閉症」「アスペルガー症候群」「広汎性発達障害」など、複数の診断名が使われていました。DSM-5では、これらを自閉スペクトラム症という一つの診断カテゴリーにまとめています。現在も、過去に受けた診断名や本人が大切にしている呼び方があるため、名称の違いだけで本人の経験を決めつけないことが大切です。[3]
2.ASDに見られる主な特性
ASDの診断では、大きく分けて「社会的コミュニケーション・相互的な関わり」と「限定的・反復的な行動や興味」の2つの領域を確認します。以下は特徴の例であり、すべての人に同じように当てはまるわけではありません。
① 人とのやりとりやコミュニケーション
会話の内容だけでなく、相手とのやりとりのテンポや、表情・視線・身ぶりなどを使ったコミュニケーションに難しさが見られることがあります。
例えば、次のような様子です。
- 自分の好きなことを一方的に話してしまい、相手の反応に合わせて話題を変えることが難しい
- 相手の表情や声の調子、場の雰囲気から意図を読み取ることが難しい
- 言葉を文字どおりに受け取り、冗談や曖昧な表現が伝わりにくい
- 友だちとの距離感や、場面に合わせた関わり方を調整することが難しい
ただし、これらは「人と関わりたい気持ちがない」という意味ではありません。関わりたい気持ちがあっても、相手の意図を読み取ったり、自分の気持ちを伝えたりする方法が周囲と異なることがあります。視線を合わせることだけでASDかどうかを判断することもできません。
② こだわりや反復的な行動・興味
同じ動作や言葉を繰り返す、決まった手順や予定を好む、興味のあることに強く集中するなどの特徴が見られることがあります。
- 予定や順番が変わると、不安になったり混乱したりする
- 遊び方や物の並べ方が決まっていて、変更を受け入れにくい
- 特定のテーマや物事に強い関心を持ち、詳しく知ろうとする
- 同じ言葉や動きを繰り返すことで、安心したり気持ちを整えたりする
決まった手順や繰り返しは、本人が見通しを持ち、安心して過ごす助けになっていることもあります。周囲から見て「やめさせた方がよい」と感じても、本人にとってどのような意味があるのかを考えることが大切です。
③ 感覚の感じ方
音、光、におい、味、肌触り、痛み、体の動きなどの感覚を、周囲の人より強く感じたり、反対に気づきにくかったりすることがあります。
例えば、掃除機やチャイムの音を強く嫌がる、服のタグや靴下の縫い目が気になる、食べ物の食感で食べられるものが限られる、転んでも痛みを訴えにくいなどです。
感覚の特徴は外から見えにくく、本人も言葉で説明できない場合があります。「わがまま」「好き嫌い」と決めつける前に、どの刺激が負担なのかを観察してみましょう。
3.「スペクトラム」は、一本のものさしではない
「スペクトラム」という言葉から、軽い・重いを一本の線で並べたイメージを持つことがあるかもしれません。しかし、ASDの特性は一つの方向だけで表せるものではありません。
例えば、言葉での表現は得意でも、相手の意図を読み取ることが難しい人がいます。予定の変更には対応できても、音や光に強い負担を感じる人もいます。知的発達や言語発達、得意なこと、必要な支援も人によって異なります。
同じ診断名でも、日常生活で困る場面や、役立つ支援は同じではありません。また、同じ人でも、体調、疲れ、環境、年齢、周囲からの要求によって特性の現れ方は変わります。
スペクトラムとは、誰もが同じ一本の尺度のどこかに位置するという意味ではなく、多様な特性の組み合わせや現れ方があることを理解するための考え方として捉えるとよいでしょう。
4.ASDはどのように診断される?
ASDの診断は、チェックリストの点数や一場面の行動だけで決まるものではありません。DSM-5-TRなどの診断基準を参照しながら、発達の経過、現在の行動やコミュニケーション、生活への影響を総合的に評価します。
DSM-5系の基準では、社会的コミュニケーション・相互関係の領域にある3つの側面すべてについて持続的な特性があること、限定的・反復的な行動など4つの側面のうち少なくとも2つが見られること、発達早期からの存在、生活上の機能への影響などを確認します。[1]
診断では、保護者への聞き取り、成育歴、園・学校での様子、本人との面接や行動観察、必要に応じた発達・知能・言語などの検査が参考になります。ASDを確定する血液検査や画像検査があるわけではありません。CDCも、発達歴と行動の情報をもとに診断することを説明しています。[2]
また、言語発達、知的発達、ADHD、不安、睡眠、身体疾患など、併存する状態や、似た困りごとを生じさせる要因も確認します。検査の結果だけでなく、実際の生活で何に困り、どんな支援が必要かを把握することが重要です。
5.家庭でできる関わり方
ASDの子どもへの関わり方に、全員に共通する正解があるわけではありません。本人の感じ方や理解の仕方を確かめながら、わかりやすく、予測しやすい環境を整えていきます。
見通しを持てるようにする
予定や手順を、言葉だけでなく写真・絵・文字などで示す方法があります。「あとで」「もう少ししたら」といった曖昧な表現より、「時計の長い針が6になったら片付ける」など、具体的な伝え方が役立つ場合があります。予定が変わるときは、可能な範囲で早めに知らせましょう。
具体的で短い言葉を使う
一度に多くの指示を出すより、「ランドセルを置く」「連絡帳を出す」のように、行動を小さく分けて伝えると理解しやすくなることがあります。言葉での説明が難しいときは、指さし、写真、カード、文字など、その子に伝わりやすい方法を使います。
感覚の負担を減らす
音や光、におい、衣服の感触など、本人がつらさを感じている刺激を把握し、可能な範囲で調整します。静かな場所を用意する、イヤーマフを使う、衣服や食具を選べるようにするなど、本人に合った工夫を検討します。
こだわりや興味を、理解の手がかりにする
強い関心は、学びやコミュニケーションの入り口になることがあります。好きなテーマを会話や課題に取り入れたり、得意な方法で説明したりすることで、取り組みやすくなる場合があります。ただし、興味や得意なことも一人ひとり違うため、「ASDだからこの力がある」と決めつけないようにしましょう。
NICEの子ども・若者向けガイドラインでは、意味のある言葉・絵・記号による視覚的支援や、照明・音・空間など感覚面への環境調整が推奨されています。これは、特定の方法を全員に当てはめるということではなく、本人のニーズに合わせて環境を整える考え方です。[4]
6.園・学校と共有したいこと
家庭でうまくいっている工夫や、本人が負担を感じやすい場面を園・学校と共有すると、環境を調整するヒントになります。
例えば、次のような情報です。
- 予定変更や活動の切り替えで困りやすいこと
- 口頭指示と視覚的な手がかりのどちらが伝わりやすいか
- 音や光、人との距離など、負担になりやすい環境
- 本人が安心できる方法や、助けを求めるサイン
- 好きな活動や得意なこと、力を発揮しやすい条件
大切なのは、本人の行動を一方的に変えることだけを目標にしないことです。環境や伝え方を変えることで、本人が力を発揮しやすくなる場合があります。
7.相談を考えたいとき
ことばや遊び、人との関わり、予定変更への不安、感覚の負担などが続き、本人や家族が困っているときは、相談してかまいません。市区町村の保健センターや発達相談窓口、発達障害者支援センター、小児科、児童精神科、発達外来などが相談先になります。
受診時には、気になる行動だけでなく、いつ・どこで・どのように起こるのか、本人が落ち着く条件、園や学校での様子などをメモしておくと役立ちます。診断がつくかどうかにかかわらず、必要な支援を考えるための相談ができます。
まとめ|芽吹きのヒント
ASDは、社会的コミュニケーションや相互的な関わり、限定的・反復的な行動や興味などに特性が見られる神経発達症です。特性の組み合わせや現れ方、必要な支援は一人ひとり異なります。
子どもの行動を「困った行動」とだけ捉えるのではなく、その背景にある理解の仕方、感覚の感じ方、不安や見通しの持ちにくさなどを考えてみましょう。本人に合った伝え方や環境を見つけることが、安心と参加につながります。
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参考文献・参考資料
- American Psychiatric Association. DSM-5-TR(2022). 日本語版:医学書院『DSM-5-TR 精神疾患の診断・統計マニュアル』. https://www.igaku-shoin.co.jp/book/detail/112206
- CDC. Clinical Testing and Diagnosis for Autism Spectrum Disorder. https://www.cdc.gov/autism/hcp/diagnosis/index.html
- American Psychiatric Association. Autism spectrum disorder. https://www.apa.org/topics/autism-spectrum-disorder
- NICE. Autism spectrum disorder in under 19s: support and management. https://www.nice.org.uk/guidance/cg170/chapter/recommendations
- 公益社団法人 日本精神神経学会『松本英夫先生に「ASD(自閉スペクトラム症)」を訊く』. https://www.jspn.or.jp/modules/forpublic/index.php?content_id=55






